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東京大学 江崎教授インタビュー GUTPの活動とスマートシティ、オフィスビルについて

東京大学 江崎教授インタビュー  GUTPの活動とスマートシティ、オフィスビルについて

はじめに

江崎教授は東京大学において、GUTP(Green University of Tokyo Project : http://www.gutp.jp/)というプロジェクトにおいて、ビルのスマート化を推進しています。今回はGUTPの活動とスマートシティ、そしてオフィスビルのスマート化について語っていただきました。

GUTPの活動について

GUTPの目的は節電ではありません。ビルのオープン化にあります。

一般的に施設の運用費の3分の1が電力であり、効果としては最も分かりやすい。それを原資にしてビルのスマート化が図れると考えました。また、インターネットのアーキテクチャを建築に適用することで、楽しいビルを作りたいと考えました。

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ビルを楽しくするというのは、ベンダーオリエンテッドであったビルの設備システムを、ユーザオリエンテッドにするということです。それこそがビルのオープン化あり、また、ビルの設備システムにおけるスケルトン・インフィルということもできます。

ビルのオープン化はビルの価値を向上させているといえます。ビルのオーナーがセルフ・インベスティメント(自己投資)によって、機能を向上させることが容易になるためです。結果としてシステムの効率化が図られ、節電が進むと考えられます。

重要なのは、適度な「あそび(余裕)」があるということです。それが継続的なイノベーションを誘発します。規制を強くすると、それらが抑制されてしまいます。そのために規格化を進めたのがインターネットのアーキテクチャをそのまま適用したIEEE1888というプロトコルです。

IEEE1888について

規格化するにあたって、その普及を拡大させるためには、グローバル市場で通用するものでなくてはいけないと考えました。そのため、GUTPのメンバーで規格化を進めたプロトコルを、国際規格であるIEEEとして認定させました(現在、ISO/IECでの規格化も進行しています)。

その後も、マイクロソフト品川などの国内での先端的な取り組みによって、ビジネス化を推進しています。こうした成果もあって、IEEE1888は少しずつ広がってきました。現状では「見える化」のためのアプリケーションが大多数ですが、今後は設備制御にも広がっていくと考えています。

IEEE1888では、設備システムのデータベースとコントロール部分を分けることができます。現在、ビルの中の制御アルゴリズムは中央監視ベンダーの独擅場ですが、IEEE1888のようなビルのオープン化とクラウド化が進むと、制御アルゴリズムを交換可能にしたいというニーズが生まれるはずです。オーナーとしては制御アルゴリズムがベンダーにロックインされず、メリットになると考えます。

ベンダーが持っている秘匿性の高いアルゴリズムをオープンにする必要はありませんが、システムのオープン化によって更なる省エネの可能性が広がると考えています。また、こうした取り組みが進むと、ベンダーはビジネスモデルを変えざるを得なくなります。それによって、競争やイノベーションが生まれると考えています。

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スマートシティに必要な機能について

一部のディベロッパーは、ビル管理機能の集約化をすでに行っています。管理の効率化のため、今後は多棟管理が一般化していくことは明確です。

他にも、たとえば事業者が一括受電を行い、面的な省エネ・節電を図るといった取り組みも始まっています。いわゆるネガワットの取組みです。また、電力自由化を受けた創エネの動きもあります。

GUTPは、そのように電力を消費する側(ユーザーサイド)へ目を向けています。ただし、東日本大震災によって、最近では電力の供給側(サプライサイド)にもコミットできるようになってきました。

スマートシティを推進する上での課題について

新しい技術はリスクがあり、そのためオーナーは保守的な手法に落ち着く傾向があります。それは仕方のないことです。我々は、それを突破するためにベストプラクティス(成功事例)を作り続けなければなりません。

しかしながら、IEEE1888で実現するようなマルチベンダーによるシステム構築は容易ではありません。私は、そうしたオープン規格を使いながら、緊張感を持ってプロジェクトに取り組んでいく環境ができればよいと考えています。

なお、スマートシティのインフラ作りとしては、中東のUAE(アラブ首長国連邦)などのトップダウンの手法が有効といえますが、日本はそのようにはなりません。既存のインフラからスクラッチ&ビルドしていくモデルになると考えています。

スマートシティからオフィスビルにどのような情報が提供できると思いますか。

オフィスビルの目的は第一に労働者の生産性の向上です。人が快適なように制御するのが一番です。ですので、ワーカーを元気にするような情報が提供されると良いかもしれません。たとえば、働きすぎている人の情報や、センサーなどで人の健康状態を渡すなどです。(そうした情報を一番欲しがっているのは、お客様の健康状態がとても重要な保険会社かもしれません)

ビルがスマートシティに省エネ情報を提供するのは、話としては分かりやすいのですが、ビジネスにはなかなか結び付きません。ワーカーがみんなで節電するとオイル(石油)の値段が安くなる、または節電情報によってオイルマーケットと取引ができるくらいまでなると状況が変わってくるかもしれませんが...

しかしながら、経費削減のために節電を考えるのではなく、その活動がビジネスユニットの効率化に寄与するという視点が重要です。つまり、楽しく創造的な仕事をするということです。

楽しい働き方について

孫正義さんの例を挙げますと、彼はiPhoneとiPadだけで仕事をしているといっています。大きな効果としていえるのは、まず机がきれいになること。オフィスがすっきりするということです。こうしたオフィスは、特にエグゼクティブに好まれます。

シンクライアント化の流れは、BCP的にも好ましいですが、紙を減らすことができるということも重要です。利用できる床面積を30%以上増やすこともでき、それによって生産性の高い、きれいな働きやすいオフィスができます。

また、シンクライアントであれば、働くために必要なのはWifiだけです。ビルのインフラがダメになっても、3G回線さえあれば最低限の業務継続が可能になります。自宅など何処にいても仕事ができるため、女性の労働支援(在宅勤務)にも有効です。

一方、クラウド化が進むことで、フロア内にサーバ室をつくる必要がなくなります。重要なのは、それによって入居時・撤去時のコストが大幅に削減可能になるということです。これは、ライフタイムコストの低減であり、ライフタイムにおけるビルの価値を最大化することになります。

オフィスビルなどで働く人が、どのように変わっていって欲しいと考えていますか?

ワーカー自身の省エネ行動は不要にすべきと考えます。無駄なく仕事をする、喧嘩をせずに調整をして、早く帰ることが重要です。そして、仕事が終わった後に同僚と飲みに行くということ。シンクライアントのもう一つの効果は、データをデバイスに保存しないために、PCなどのデバイスを持って飲み会に行けるということだったりします。

節電を気にするのではなく、効率の良い仕事の仕方をすれば自然と省エネになります。たとえば、昼休みは電力を消さずに、コミュニケーションを図るのがよいでしょう。そのように楽しく働き、結果として節電が図れる。そのための情報プラットフォームとして、IEEE1888があります。

街の安全、安心についてスマートシティがどのようにコミットできると考えていますか?

「安全」は災害ゼロを目指すが、「安心」はリスクマネジメントを行うことです。

あまりに厳しいルールを作ると、ブラックマーケットが生まれます。繰り返しになりますが、あそび(余裕)を意図的に持たせた設計が、イノベーションを生むことになります。そのような意味で、私は「レゴブロック」のようなビルが理想と考えています。

ひとつの例として公害問題を挙げます。日本では、きれいなもの・無駄のないものを作ろうとしたら、自然に公害が減りました。同じようにビルを楽しくすることが効率的につながり、結果的に節電となり、カーボンフットプリントを減らすことができる。

逆に言うと、いい会社は早く帰って酒が飲めるということです。

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所感

ビルのオープン化を進めることによって、様々な方々がビルの効率化に寄与することができるようになります。また、オープン化とクラウド化が進むことで、オフィスワーカーは省エネを気にすることなく快適な環境が与えられ、それが建物の価値向上にもつながってくる。

ビルの設備システムにインターネットの考え方を適用するというのは、インターネットの世界で行われているイノベーションがビルの中で展開されるということです。こうした動きはまだ始まったばかりですが、一般化が進むことで、先に述べた高い付加価値が与えられるようになると期待されます。特にタブレットを持つと、居酒屋に行く自由度が上がるという考え方は新鮮ですね。

「タブレットを持って、お酒を飲もう!」