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日本生命保険相互会社 不動産部 池田部長 生命保険会社が考えるビルの付加価値とスマート化について

日本生命保険相互会社 不動産部 池田部長 生命保険会社が考えるビルの付加価値とスマート化について

はじめに

日本生命保険相互会社(ニッセイ)は、日本で有数の生命保険会社であり、かつ多くの優良な不動産物件を保有しています。今回は、ニッセイの不動産部長である池田様に生命保険会社が考えるビルのスマート化という切り口でお話を伺いました。

ビルの付加価値について

私は入社以来、ずっとニッセイで不動産の仕事をしてきました。ITの専門家ではないのですが、ずいぶん前にプロジェクトを通じて東京大学の江崎教授と知り合ったこともあり、ITを使ったビルのオープン化、スマート化の活動にも早くから目を向けていました。

最近では、ビルのスマート化の文脈でビルの設備ネットワーク(BAネットワーク)と、自社の業務用ネットワーク(OAネットワーク)を統合する議論がよく聞かれますが、それは間違いだと考えています。そうした議論があるのは、対象として自社ビルを想定しているためですが、世の中の大部分は自社単独ビルではありません。テナントビルです。

テナントビルの場合、一般的にどのようなテナントが入居するのか想定できません。全てのテナントに適合するビルのネットワークを設計することはできないと考えています。

たとえば、1980年代に流行したインテリジェントビルでは、ビルサービスとして、テナントエリア専用に電話機が設置されました。これは大きな間違いです。一般的に、企業は1つのビルの中で完結しているとは限らないために、企業の用意する内線電話と、ビルの用意する外線電話が混在することになりました。

そうした経験もあって、ビルオーナーとしては、テナントが持ち込もうとする設備に対して、あまり世話を焼かないのが正しい姿勢だと考えるようになりました。その反面、これを持ち込みたい、こんな事がしたい、といったテナントの要望に対しては、ノーとは言わずに、可能な限り応えられるようにすべきと考えています。

我々の考えるビルの付加価値とは、そのようにテナントの要望に柔軟に対応すること、またはテナントの活動をフラットに仲介することによって、その経済活動をいかに支援できるかということです。このビルに入居した方が得だと思われること。それこそが付加価値です。ビルの性能自体は付加価値ではありません。

スケルトン&インフィルについて

そうした付加価値を提供する仕組みが「スケルトン&インフィル(S&I)」です。構造と中身を分けて考えるということであり、言いかえれば、壊れやすいものは取り替えやすく、取り替えたくないものついてはしっかり作るということです。

このS&Iの考え方が、街、ビル(建物、構造、設備)、テナントと視点を変えていっても、連続した入れ子構造になって、フラクタルに展開している、どの断面で切っても、そのことが担保されていることが理想と考えています。

江崎教授が推進しているIEEE1888や、森ビルが先導しているLonworksなどは、設備のS&Iであり、オープン化ということができます。これらの動きは、建築設備の制御技術が、オン / オフという単純な2値制御から、アナログの数値データを使った制御へ進化しており、コントロール可能なパラメータが増えてきていることに起因しています。まずはアナログ制御が一般的だった空調システムが先行し、LEDの普及によって、照明システムでもオープン化の対応が始まりました。

しかしながら、日本においては、まだ完全なオープン化には至ってはいません。設備制御の分野では、海外メーカーの仕様が一般化してきていますが、国内では依然として各社の独自仕様が乱立しており、ガラパゴス化が進んでいるように思えます。こうしたメーカーによる囲い込みは、空調システムにおいて一度失敗を経験しています。その他のシステムにおいてもいずれは淘汰され、よりオープンな仕様に移行すると考えています。

たとえば、我々もオープン化の思想に基づいたクラウド型のBEMSを構築したことがあります。他ビルの設計への応用を考えて、BEMSデータの取り出しを考えたのですが、10年ほど前の古いデータについては、ベンダーに依頼しないと取り出せないということがありました。理想的なオープン化とは、誰にでも扱えるプロトコルが普及することで、そうした弊害がなくなることだと理解しています。

また、オープン化によって、建築設備系以外のITベンダーにもシステム構築のフィールドが広がりました。そうしたベンダーは、システム構築においてはまだ不慣れな印象ではありますが、どんどん機会をつくっていきたいと考えています。

クラウド化について

オフィスビルの場合、電気代、時間外空調の利用など、エネルギーがどのように使われたかを金額に換算する請求書の発行が大きなミッションといえます。賃料も含めた請求業務は、今までインハウスでシステムを抱えていましたが、これからはクラウドでの運用を考えていきたいと思っています。

クラウドを使うことのメリットは、こうしたテナントへの請求書発行業務を集約し効率化すること、OSの互換性やシステムの陳腐化による問題を防ぐこと、そして合理性を持ったビル運営が可能になることです。

今までのビルの設備はWindowsなどのOSに依存していたという経緯があり、その更新や互換性の検証に大きなコストがかかっていました。また、一般的なPC・サーバの寿命は5年程度であるのに、建物設備の寿命は15~20年であるため、更新のタイミングが合わないことによるシステムの陳腐化も課題でした。

そうした課題回避のためにも設備システムはできる限りサーバ化、クラウド化して集約するべきと考えます。設備用のサーバは1つのビルで持つのではなく、複数ビルでシェアして、管理コストを下げるという思想です。我々は、ビル管理会社と協業して、そうしたクラウド型のシステム構築を進めており、今後保有物件への展開を進めていきたいと考えています。

また、設備システムのクラウド化を進めることで、複数ビルのエネルギー情報を集約して管理することができるようになります。我々は、同じ規模のビルのエネルギー使用量を並べて比較し分析することで、エネルギー管理の効率化に加え、データに基づいたビル運営が可能になるとも考えています。

今までのビル運営は、職人芸のように、勘と経験でなされていることが多く、必ずしもデータに基づいているとはいえない状況でした。ビル管理人材の不足も騒がれている状況で、合理的なビル運営の仕組みをどう作るかが課題となっています。

そのため、我々はエネルギー分析、レポーティングをすることに加え、ビル運営のノウハウを学習してフィードバックするシステムの検討・構築を始めています。これは、ビルオートメーションシステムのクラウド化であり、オペレーションの中身を比較して、合理性を手に入れるということです。言いかえれば、あまり経験値の蓄積がなくても、合理性を持ったビル運営が可能になるといえます。

ただし、こうしたシステムの導入にあたっては、集めたデータを適切に分析し、レポートできる人材が必要になります。また、そうした結果を、業務プロセスに組み込むことが重要だと考えています。

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省エネについて

東日本大震災があった当時、私は関西にいましたが、ビルオーナーとしてテナントに省エネをお願いしていました。関西電力としても、省エネでキャッシュバックがある仕組みを提案しており、それをテナントに紹介もしていました。もちろん、ビル側では、共用部の照明などは可能な限り消灯するなどの努力はしていました。

最近では、ワーカーは照明が暗いことに慣れてきたと考えています。以前は照明の基準照度を750lx設定していましたが、最近つくっているビルでは400lx程度にしています。一方で、蛍光灯の間引きなどをしなくても、遠隔で照度を落とせるビルも出てきています。もう少し進んでいる事例では、ビル設備の一部のコントロールをテナント管理者に開放しています。

たとえば、日本生命丸の内ビルでは、ウェブブラウザで空調等の操作が可能になっています。テナントの総務担当の方にコントロールのためのURLとパスワードを付与しており、通常モード/省エネモードなど、設備の制御パターンを指定できるようになっています。こうしたサービスの提供によって、テナントの満足度も向上します。また、このビルにおいては、時間外空調費はありません。使った分だけ請求されます。結局のところは省エネも各社の経済活動の1つであり、専有部の省エネはテナントの得になります。 重要なのは、テナント側にそうした目利きのできる人が居るかどうかです。

一般的に省エネはネガティブなことが多いのですが、我々はそうではない省エネを目指したいと考えています。我慢を強要しない、不幸を減らすような省エネが理想であり、大事なミッションであるとも考えています。

電力の自由化について

 我々のビジネスでは、いざというときに電力がどれだけ担保できるのか、ということが重要です。電力の自由化によって、安い電力が使えるようになるのは良いですが、需給がひっ迫した際に、電力供給がストップする懸念があります。

そうした意味で、安全性の高い電力は必要と考えます。安全性の高い電力とは、いわば保険のかかったエネルギーであり、その分コストが上がるのはやむを得ないと考えています。

REITとの違いはそうした考え方にあります。生命保険会社としては、資産として建物を長く保有することが必要であり、収益だけを追求すればいいというわけにはいきません。このように、ビルオーナーの顔が見えていることで、テナントに安心して入居いただけるということに繋がっていく。そこに価値があると考えています。

また、長く保有するということは、先に述べたS&Iの考え方に繋がります。設備更新の手間をかけずに、建物を長く使っていただけるということは、テナントにもメリットがあるものと考えています。

高度なテナントサービスの提供

東日本大震災の際に、建物の健全性についてのレポートを求める声が多くありました。それらを迅速にやろうとすると、システム化は避けられません。我々は今後、保有物件すべてに、地震直後の建物の状態モニタリングを行うシステムを導入する予定で、現在実験的に数か所導入しています。

このシステムは、各所に配置したセンサーによって地震直後の建物の構造解析を簡易に行い、その状態(被災度など)をテナントに知らせることが可能で、それらの情報が、テナントが避難を決める判断の助けとなることを目的としています。

我々は安全、安心を提供している会社です。安全については第一優先で考えるべきであることは言うまでもありません。 我々のこうした価値観が、入居テナントの経済価値向上にもつながっていくことを期待しています。

テナント/ビルのスマート化について

テナントとしてのスマート化と、ビルとしてのスマート化は全く意味合いが異なります。前者はICT(Information and Communication Technology)を使った業務の効率化であり、後者はIT(Information Technology)による先に述べた省エネルギーの実現、オペレーションの効率化、ビルサービスの提供です。それらは明確に分けて考える必要があります。

仕事というのはコミュニケーションで成り立っているので、ICTが重要になります。更にはデータ(情報)とのコミュニケーションがうまくできるとより効率化が図れます。これは、ICTを使いこなすことで合理的な選択が可能になるということで、結果として、競争力を得ることになり、経済活動が活性化するといえます。重要なのはそのサイクルを作り出すことです。

ビルのITについては、先に述べたとおりです。我々は、与えられたエネルギーの中で、最大限のパフォーマンスを出すのがビルオーナーの使命であり、それを実現するのがビルのスマート化だと考えています。

オフィスワーカーへ求めること

こうした中でオフィスワーカーがすべきことは、できる限り情報を摂取して、合理的な判断ができる環境や仕組みを要望していくことだと思います。オフィスの環境改善の要望をワーカー個人に聞くと、居室の快適性に議論が流れがちですが、それは手段であって目的ではありません。個人の目的は、たとえば効率よく業務を遂行することで早く帰れる、自分の時間をつくれる、といったところにおくべきです。言いかえれば、ワーカー自身が競争力を持って、合理的な選択をすることとなります。この辺りはICTで解決すべき課題でしょう。

ワークプレイスは、ワーカーの働き方やICTに大きく影響を受けます。NEOの活動には、そうしたワークプレイスとしてのインフラの考え方についての、アイデア・研究を期待しています。

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(おまけ)BIMについて

BIM(Building Information Modeling)はとても重要です。これからの建設はBIMを中心に発達すべきであり、これからの(不動産)経営にBIMは必要不可欠なツールであると考えています。 BIMには2つのメリットがあります。

1つは、壁の中に何が入っているかすぐに分かるということです。これは、後々のビル管理において重要になってきます。2次元の紙図面より、3次元のBIMデータの方が直感的であり、活用もしやすいと考えています。

2つは、施工が簡便になるということです。天井裏などのダクトの取り合いを検討することをダクトワークと呼びますが、あれはナンセンスです。最初からダクトのあり方まで計画すべきで、それによって、天井裏のダクトユニットが作れます。こうしたユニットを現場で組み立てることで作業効率の向上が図れます。このように、BIMで建物のプレハブ化が進めば、労務量の軽減にもなります。